• だしと私 2018.10.02

vol.1 料理研究家 植松良枝さん

移りゆく季節に寄り添いながら
旬の素材を大切にいただく暮らし

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自家菜園で野菜やハーブを育てながら、雑誌や書籍でレシピを提案したり、レストランのメニューをプロデュースしたりと活躍している植松良枝さん。ベトナムやインド、スペイン、イタリア、北欧、台湾など、旅先で覚えた味を、家庭で作りやすくセンスのいいレシピに落とし込むのも得意で、長年主宰している料理教室は大人気。頻繁に料理イベントを開催したり、旅に出たりとアクティブなことでも知られていますが、三月に長男を出産し、生活や料理の仕方に変化が出てきたと言います。

 

 

家庭料理の大切さを再確認する日々
おもてなしも飾らず、丁寧に

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「赤ちゃんがいる生活は、やっぱりなにかと忙しい。日々の料理はどんどんシンプルになってきましたね。といっても、手間をかけない簡単さだけを求めているのではなく、素材そのものの味を生かすことにより敏感になってきたというか。

外食もままならないけれど、友人知人を呼ぶ機会は増えました。せっかく会いにきてくれるなら、なにか作っておもてなししたいと思う性分。そんなとき、以前は外国の本格的な味や手の込んだ料理を出すことも多かったんですが、今は家庭料理を出すことが増えましたね。手を加えすぎないけれど、ちゃんと丁寧に作った家庭料理って、意外とみんなが欲している料理。素材や調味料にとことんこだわる家庭料理って、いちばんのおもてなしになるなと気づいたんです。焼いただけ、炊いただけでも、旬の素材といい調味料を使っていればおいしいんですよ」。

 

 

菜園での野菜作りを通して
旬を感じる力を身につけてきた

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「野菜を育てていると、旬のものを食べざるを得ないんです。その時期のものしか採れないし、大量にできるから食べ方も工夫するようになってくる。素材に力があるから、手をかけなくてもおいしい。栄養価も高いし、からだが求めているものでもある。それが旬なんだと体感するようになって、日本の暦も意識するようになりました。春夏秋冬の間にある土用の時期は、一つの季節が極まって、次の季節へと転じていく期間。からだをリセットするためと、その季節の食材を存分に楽しむために、和食を意識的に作るようにしています」。

和洋問わず、季節に寄り添った料理に定評があるのは、そんな知識や体験が表れているからかもしれません。

「ずっと忙しく仕事をしてきたけれど、産前産後のお休みは、初めてゆっくりできた時間。考える時間も増えて、暦のこと、素材や食材の選び方、使い方の知識など、これまで蓄積してきたものを放出していきたいなと思えるようになりました。

先日、友人を招いたときは、アジフライ定食を出したんです。新鮮なアジの揚げたてに、しそを混ぜたキャベツの千切りたっぷりと、おすすめのおいしいソースを添えて出す。ポテトサラダは、上質なオリーブオイルとビネガーで作った自家製マヨネーズを使う。それだけで、普通のアジフライ定食が、極上になるんですよ」

素材にこだわった料理というとハードルが高く感じる人もいるかもしれませんが、植松さんの家庭料理はそんな固定概念を取り払ってくれます。 

「家庭料理だからといって、すべて和食でもないし、和食だからといってすべてにきちんと取っただしを使わなきゃいけないわけでもないと思うんです。例えば私は、炊き込みご飯にだしは使いません。素材から出るいいだしをご飯に吸わせたいから。お味噌汁も、だしを使わずにしじみ汁に赤味噌を溶いたものも大好きです。また、夏は火をあまり使いたくないから、昆布を水出しにしたり、鰹の濃いだしをまとめて取って冷凍しておき、それで作っためんつゆで即席の煮炊きをしたりしています。

だけど、 鰹の上質なだしを使わなきゃ!という料理もあるんです。特に秋冬は潤いが欲しくなるので、お浸しやとろみのついた汁もの、煮浸し、茶碗蒸しなどが食べたくなる。それはやっぱりおいしいだしが必要なんですよね。上手にできたら、汁ごと飲み干したいくらい」。

 

だしを使うのは
和食に限らない

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「実は、だしの風味って自然派ワインやオリーブオイルと合うんですよ。だしの風味は主張しすぎないから、繊細できれいな味の上質なオリーブオイルとなら、個性を消し合わないんです。

よく作るのは、浸し豆です。お正月のお節にも欠かせません。かずのこと青大豆をだしに浸しておき、食べるときにオリーブオイルをかけるんです。少し青い香りのするオリーブオイルが最高に合います。

先日、自然派ワインに詳しい友人を講師に招いてイベントを開催したときは、フルーツの入った洋風の白和え、赤ワインビネガーで作る胡麻酢和え、鶏肉のグリルなどに加えて、オリーブオイルとにんにくとレモン汁にだしを加えた和風のセビーチェを作りました。自然派ワインの持つうまみが、鰹だしとマッチするんだと思います」。 

 

「やきつべのだし」は
鰹だけのシンプルさがお気に入り

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「私、混合だしって求めていないんです。いろいろ入っているからっておいしいとは限らないですよね。混ぜたいときは、自分の好みの配分で昆布だしや鶏だしとブレンドすればいい。江戸料理の基本だしは、鰹だけだったそう。今、和食のベーシックなだしと言われている鰹と昆布の混合だしにしたいときは、だしパックに昆布を少量加えて、一緒に煮出せばいいですね。
"やきつべのだし"を初めて食べたときは、きちんと味わいたいから、三つ葉とわさびだけの汁かけごはんを作りました。少量パックなのも使いやすいですよね。一人分の料理でも余らないし、お浸しなどのちょい使いにも便利。よくある粉だしじゃないから、雑味がなくすっきりした味わいなのも好みです。削り済みの 鰹節って、パックを開けた瞬間から酸化しちゃうから、本当はだしを取るたびに削りたいところ。それがだしパックだと気にせずに済むのもうれしい」。
 
夫婦二人、たまに友人が参加する植松家の食卓に、もうすぐ息子も加わる予定。聞けば離乳食は様子を見ながら始めるつもりだそう。
 
「離乳食にだしは基本ですよね。鰹だしと昆布だしは、一つ一つ別の味として教えてあげたい。忙しくってもそんなこだわりはあるから、ちゃんとおいしい鰹だしが手軽に取れる"やきつべのだし"は重宝すると思います」。

 

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取材・文/藤井志織

プロフィール

植松良枝

料理研究家。料理教室を主宰するほか、雑誌、書籍、テレビ、webなどで活躍中。また、代々木八幡にあるベトナム料理店「ヨヨナム」のプロデュースを始め、企業やレストランのメニュー開発も行っている。インスタグラムは@uematsuyoshie