• だしと私 2022.03.09

vol.42 ties主宰 遠藤千恵さん

季節に寄り添って暮らすことを大切に

都心から1時間ちょっと。横浜市の谷戸環境という緑豊かな土地で暮らしながら、ケータリングやレシピ制作といった料理にまつわる仕事をしている遠藤千恵さん。和洋中といったジャンルにはこだわらず、その季節に採れたものを活かして、彩りが美しく風味豊かな料理を作っています。

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「だしが大好き!」という遠藤さんに、普段、だしを使って作るものを聞いてみました。

「お浸しや揚げ浸しなど、だしに浸すものをよく作ります。おうどんやおそばも、だしが欠かせませんね。夏の私の定番であるテリーヌも、夏野菜を寒天で固めて作るんですが、野菜のだしだけだと味がぼやけがちなので、昆布だしを使っています」

火にかけられるホーローバットにやきつべのだしを入れて火にかけ、いい塩梅になったら冷ましておき、下処理したインゲンとししとうを揚げたら次々にバットの中へ。ひと晩置いたら、だしがふんわり香るおいしい揚げ浸しのでき上がり。

「荒節のだしの力強いうま味とちょっとスモーキーな香りが、揚げた夏野菜によく合いました。思い立ったらすぐに作れるだしパック、夏は特に重宝しますね」

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でもなんと、おみそ汁にはだしを使わないのだとか。

「自家製のおみそのうま味が強いし、野菜の味もあるから、それだけで成立するんです。ほかにおかずもあるし、おみそ汁はシンプルな味のほうが食事のバランスがとりやすくて」

だしの繊細な味が好きという遠藤さんならではの選択かもしれません。

「普段は昆布と鰹節、椎茸でだしをとることが多いかな。でも煮物にだしを使わないこともよくあります。例えば炊き合わせなら、私はしいたけを最初に炊いて、そのだしでにんじんや大根をそれぞれ炊いていくんです。だから鰹や昆布のだしは不要。干し大根の戻し汁とか、発酵野菜の浸け汁などをだしとして利用することもよくあります」

動物性のだしや食材をあまり使わないのは、現在、谷戸という環境に住んでいることが大きいよう。

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「地域のつながりが強い場所なんです。私もそういう暮らしを望んでいるから、この土地のシェアハウスを選んで住んでいます。人とのつながりが強いと、食べ物がたくさん届くんですよ。このあたりは畑が多いから、あっちこっちのおばあちゃんやおじいちゃんが野菜や果物を分けてくれる。ここに持って来れば、シェアハウスで人がたくさんいるし、料理してくれるし、なんとかなるだろうって(笑)」

遠藤さんは、いただいた野菜を柿酢やポン酢やみそといった調味料に加工してお返しすることも。

「野菜って季節ごとに色が違うんですよね。冬は紅色や紫、春は黄色や淡い緑、夏は濃い緑とオレンジ寄りの朱赤、秋は色がなくなって茶色寄りに。野菜が採れなくなる端境期には、乾物とかを上手に使って。1年を通して季節の色を感じることを大事にしたいなと思っています」

実は、今の土地に住み始めた頃は、まだ季節に寄り添って暮らすということが真に実感できていなかったのだとか。

「ここで暮らして6年が経ちました。最初の1、2年は、畑に携わりながら季節に添った料理を作りながらも、自分のなかでまだ腑に落ちていなかったような気がします。3年ほど経ち、畑の奥にある森の中にも入るようになって、梅の花が咲き始めたから山椒がそろそろ出始める、山椒が終わる頃には梅の実が成り始めるから梅仕事をしなくっちゃ、というように季節を感覚で感じるようになってきました。季節に寄り添って暮らすということに、手応えというかリアリティが感じられるようになってきたんです」

それをいちばん実感したのは、みその仕込みでした。

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「6月は梅みそを作る、夏は生野菜のディップにするためのみそがこれくらい必要になる。畑の端境期には、乾物を使った具だくさんなみそ汁がおかず代わりになる。だから1年に必要なみそはこのくらいの量だなと計画できるようになってきて、それに合わせて早めに準備したり、仕込んだりするようになる。みそを仕込むことで、自分の暮らしの1年の見通しがたつんです。それは目に見えるものではないし、自分1人のことなんだけど、暮らしを自分でつくるということにとても幸せを感じているのです」

みそを仕込むことで、地に足のついた、自分が望む暮らしができるようになった遠藤さん。外食では肉や魚も食べるし、料理することもあるけれど、今の暮らしの基本は野菜が主体です。

「でもね、ジャンク味が欲しいっていうとき、あるじゃないですか(笑)。そんなパンチが欲しいときは、発酵調味料でうま味をおぎなっています。よく使うのが、玉ねぎの発酵調味料。玉ねぎと塩と麹を使うんですが、オイルや甘酒を入れてもおいしいし、唐辛子や蜂蜜を入れてチリソースにしたり、カレー粉を加えたり、ハーブとトマトを入れたり、乾燥きのこを加えてフレンチ寄りにしたり、アレンジが効く万能調味料なんです」

昔は同じ作り方で、にんじんやセロリでも作っていたけど、今は玉ねぎだけを作り続けているそう。

「調味料を作るのは楽しいけれど、丁寧な暮らしって、疲れちゃったら本末転倒なんですよね。日々の暮らしって忙しいんだから。毎日のことだからやりすぎると疲れちゃうし、自分の管理できる範囲内にしておきたい」

と言いながらも、季節の手仕事に常に追われていると笑います。

「今は柑橘に追われていますね。梅のつぼみも膨らんできたから、明日には摘んで柿酢に漬けなきゃ。田舎暮らしがスローって嘘ですよね(笑)。仕事というより、日常に組み込まれている仕事がたくさんある」

本来、自分の生活をつくるってすごく豊かなことだから、みんなにもそれを味わってほしい、と遠藤さんは考えています。だけど、仕事をしながら家の手仕事をしていくのはなかなかハードなこと。

「みそだけでもぜひ自家製で、と提案し続けていますが、ゼロから作るのは大変だから、人の手を借りて自分ができる範囲でやればいいんじゃないかなと。それで、二十四節気に沿った台所の手仕事をみんなで行う〈手しごとの会〉を主宰しています。参加者はリピーターの方が8割。基本のレシピをもとに、ご自身やご家族の好みに合わせて少しずつ配合を変えて仕込まれる方も多いです。そうしてでき上がったみそは"わが家だけの味"になり、心身をしっかりと支えてくれる"還る味"になっていく」

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だしだって、丁寧にとることも大切だけど、疲れていたり忙しかったりするときは、だしパックやだしプレッソに頼ればいいのだと遠藤さんは言います。

「私も初めてやきつべのだしを使ったのが夏頃で、暑くてだしをとるのが億劫なときにとても助かりましたから」

今回の取材前には、だしプレッソも試していただきました。

「鰹とか昆布という単体での液体だしって今まで見たことがなくて。どんな味がするんだろうと思ったら、予想以上にクリアな味で驚きました。だし好きなので、お湯で割って、たまに梅干しを入れて、朝、お白湯の代わりに飲んでいましたよ。塩麹をちょっと入れたりも」

だしプレッソ 鰹は、遠藤さんのスペシャリテにも活用。

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「鰹が旬の時期に、ビーツと梅干しのソースを鰹にかける料理をよく作るんです。それで、ビーツと梅のピュレに、だしプレッソ 鰹を足してみたら、とてもよく合いました。鰹のだしプレッソは、いい意味で鰹の酸味が際立っている気がして、それがビーツや梅とよく合うんですよね。パスタとか野菜を和えてもおいしいですよ」

そしてだしプレッソ 昆布は、菜の花の昆布締めに。

「菜の花やカブを昆布締めにするのがとても好きなのですが、だしプレッソに少し浸けておくと、そんな感じに仕上がりそう。昆布の塩味と風味がちょっとつく感じ。長芋の揚げ浸しも作りました」

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「やきつべのだしは料理のベースとして使いやすく、だしプレッソは、料理にもうちょっと深みがほしいなっていうときに調味料のようにあとから足せるのが便利ですね」

取材・文/藤井志織



プロフィール.jpgプロフィール

料理家/ties代表。国際線客室乗務員として10年間勤務したのち、料理学校アシスタントやレストラン勤務を経て独立。横浜市の谷戸の麓で、"身土不二"(人と大地は繋がっている)の考えと
生産者との繋がりを大切に、ケータリングやレシピ制作、アーティストとのコラボレーションなど、食にまつわる活動を多岐に渡って行っている。