• だしと私 2019.08.07

vol.11 FOOD&COMPANY 谷田部摩耶さん

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やいづ善八のだしパックを、静岡県外でいちばん最初に取り扱ってくれた小売店が、東京・学芸大学にあるフード&カンパニー。

国内外から集めた多種多様なオーガニックフードや日用品を取り揃えたグロサリーショップです。そのラインナップは、眺めているだけでワクワクするほど魅力的。

どんな思いでこのお店をつくったのか、代表の谷田部摩耶さんに伺いました。

日常から社会を変えていきたい

オーガニックな食品を扱っていると聞いたとき、どんな人がやっているどんなお店を想像しますか? 実際にそういったタイプのお店に入ると、「安全、安心な食を提供したい」という強い思いを感じることが多いかもしれません。

フード&カンパニーの代表、谷田部さんの場合は、少し違う視点からお店をつくりました。

「オーガニックという言葉から受けるイメージはいろいろありますが、食に関して言えば、私たち夫婦はニューヨークが原体験です。オーガニックフードの専門店って、日本だとちょっと特別な雰囲気がして入りにくいところもある。ニューヨークだと、もっとカジュアルな感じです。

よく言われる「上質でおいしいものがいいよね」という考え方はもちろんですが、実は私たちがこの店を作ったのは、消費の仕組みを変えたいという思いが原動力なんです」

消費の仕組みとオーガニックフードなんて、遠い関係のように思いがちですが、実は密接に関係しているのだと谷田部さん。

「私は15歳のとき、アメリカに留学しました。社会学を学び、NPOなどで働きながら、一般の生活者の暮らしの動向から経済の波を作るということについて研究していたんです。個人で社会を変えることはできないけれど、個人の日常の積み重ねがないと、社会の仕組みを変えることはできないという考え方ですね。

結婚を機に帰国して感じたのが、ニューヨークとの違い。例えば、ニューヨークでは自分が何を選択するかということが、とても重要視されます。何にプライオリティを置くか、自分が使ったお金が生産者に還元されるのか、自分の行動が周りの環境にどんな影響を与えるのか。特に食はいちばん日常にあるもので、社会のあり方が反映されやすい。それを体感できるのが、例えば生産者が直接出店しているファーマーズマーケットです」

一方、日本ではなかなかオーガニックマーケットが広がっていかないのが現状です。それはなぜなのでしょうか?

「まだ低価格や利便性を優先しがちだからかもしれません。日本は十分豊かになったのだから、もう一歩先の選択をするのもいいと思うんです。入り口はただ「おいしい」でもいい。そこから、社会全体の利益につながるような仕組みをつくりたいなと考えて、「フード&カンパニー」をオープンしました」

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みんなが心地よく暮らすために

「売り手と買い手がともに満足し、世間に貢献できる商売を」という意味の「三方よし」という言葉があるくらい、日本は本来、ソーシャルビジネスのような概念があった国。谷田部さんは、今は忘れられてしまっていることを、リマインドすればいいのだと言います。

「そのために小売店ができることはたくさんあります。マーケット自体を育てていかなくてはならない。そこでもっと間口を広げるために、新宿の駅ナカに店舗を出しました」

「フード&カンパニー」の新宿駅ナカ店は、コンビニのような感覚で買い物できる小さな店舗です。老若男女、いろいろな人に溢れた活気のあるお店。

「正直に言うと、出店に関してはとても迷いました。なぜなら、私たちは働いているスタッフのやりがいや満足度を大事にしているから。新宿の駅って忙しさの象徴のような場所で、人がみんな慌ただしく、殺伐とした雰囲気もありますよね。お客さんとの会話も楽しめないかもしれない。そんなところでスタッフたちが楽しく働けるかなって思ったんです」

谷田部さんが目指しているのは、みんなが満たされた状態。だから、スタッフの声をできるだけフラットに聞くことを心がけているのだそう。

「多様な意見は大切だし、小さな声も潰さない、風通しの良さを大事にしたい。小売業は拘束時間も長いし、ハードな肉体労働でもある。一方で、自分の仕事の反応がその場で感じられるという、とてもクリエイティブでやりがいのある仕事なんですよね。今はどこでも同じものが売っています。ネットだと低価格で便利に買えることも多い。一方で実店舗の魅力は、とにかく人です。この人から買いたい、という気持ち。このコミュニティから生まれているものを買いたい。

だからスタッフが実際に使ってみて、お客さんに自分の言葉で伝えることも大事だし、スタッフにもこの店で働く意義を感じてほしい」

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視野を広く持つことと

身近に幸せを感じることはつながっている

ほかにニューヨークから帰国した際に感じた日本との違いと言えば、情報の質だそう。

「日本のメディアが伝える情報は限定されていて、危機感を感じるほど世界からは取り残されています。不都合なことを知ることは、ときに重い気持ちになるものだけど、避けていても仕方がない。海外にいると、もっと政治や環境に関する情報が多いので、何事もその背景を知ろうという意識が強くなります。私たちはそういう流れを作るために、食品が入り口になったらいいなとも思っています」

食は、生活に密着していることだからこそ、なにを選ぶか、ということが、社会を変える一歩になるのです。

「店名にあるFOOD(食)とCOMPANY(仲間)って、人生の豊かさに最も欠かせないものだと思っています。おいしい食事を好きな仲間たちとわかちあう幸せ。自分の日常にいかに価値を見出していくかということにおいて、マストなエッセンスですよね。そんな有機的なつながりを、確かな価値としてあらためて伝えたい、という気持ちを込めて名付けました。

そういう社会的なメッセージって英語だともっと気楽な感じなんですが、日本語にすると少し重いかもしれませんね(笑)」

ときとして選択することは、選ばなかった側を批判してしまいがち。でもそれでは、何も変わりません。

「誰かを否定したり不満をもらすよりも、仕組みそのものを変えて、人が自ずと変わるように促していけばいい。「消費は投票です」って、確かにそうなんです。自分が選ぶものが社会を変える。だけど興味のない人たちには届きにくい。完璧にサスティナブルでエコなものをと言っても、拒絶されてしまったらおしまいです。諦めたら、自分が見たい景色はずっと見られない。それよりも、1つでも変化をもたらしてくれる方向に自分がアクションをとって進めるほうがいいと思うんです」

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伝えたいことは

やわらかな態度で

自分がいいと思うものは、人に押し付けるのではなく、「こういうのもいいんじゃない?」と寄り添うように提案したいという谷田部さん。

「やいづ善八のだしパックには、同じスタンスを感じます。だしという日本古来の素晴らしい文化を、きちんととろう!と声高に伝えるのではなく、だしパックという形で現代の暮らしに合わせて提案している。小売店をやっていると、上質なだけでなく、ある程度の使いやすさは必要だなと感じています」

だから「フード&カンパニー」では、「野菜は日常的に食べるものだから」と、可能な限り価格を下げる努力をしています。

「高いものは特別なときだけになってしまうけど、良質な野菜は毎日食べ続けてほしい。継続することが、頑張って野菜を作っている農家の人たちへのサポートにもなるので」

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そんな谷田部さんにとって、やいづ善八の商品はどんな存在なのでしょうか。

「だしパックは、毎日使って飽きの来ないちょうどいい味。主張しすぎないところがいいですよね。個装で使い勝手がいいのも、ブランドコンセプトにも共感しました。パッケージも好みです。家にあって毎日使うものだから、パッケージひとつとっても心地いいものがいい。その点、やいづ善八の商品は満足しています。

普段はマグカップにだしを入れて、梅干しとか塩を少しだけ入れたのを、朝や小腹がすいたときに飲むことが多いですね。手軽にとれるので、だしパックを重宝しています」

取材・文/藤井志織

プロフィール

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2014年3月、東京・学芸大学にグローサリーストア「FOOD&COMPANY」をオープン。現在は、湘南T-SITEや新宿の駅ナカにもオープンし、生産者や加工の過程がわかる野菜や加工品、日用品を販売。学芸大学や湘南T-SITEの店内にあるコミュニティスペースでは、食をテーマにしたワークショップやイベントも開催している。

http://www.foodandcompany.co.jp/