• だしと私 2020.05.05

vol.20 菓子研究家 福田里香さん

菓子研究家の福田里香さんは、雑誌や書籍にお菓子のレシピ提案や評論を寄稿するだけでなく、漫画や民藝に関するエッセイなども手掛ける多才な人。数々のご著書は乙女心をくすぐるキャッチーさを備えながら、ぐっと深く掘り下げた内容も素晴らしく、独特のユニークな視点がファンの心を惹きつけてやみません。

そんな福田さんに<やいづ善八>は、だしプレッソのレシピ開発を依頼。ご自身が「根っからのオタク」という研究魂は、どのように発揮されたのでしょうか。

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無限に考えられる

だしの可能性

<やいづ善八>が福田さんにレシピ開発をお願いしたのは、ご著書『新しいサラダ』に感動したことがきっかけ。こんなに美しく、シンプルに素材を味わうレシピを、だしを使って提案したいという思いがありました。

福岡出身の福田さんにとって、だしといえばあごだしが定番だったそう。

「私は生まれも育ちも福岡なので、馴染んできたのはあごだしなんです。香ばしい味が好きなんですよね。お正月には、いりこ、鰹、あごをすべて使って混合だしをとり、さらにかしわ(鶏肉)やブリも入れたお雑煮を作ります。たくさん入っているけど、黄金色に澄んでいてすごくおいしい」

福岡は、ラーメンやうどんも有名。どちらもだしがポイントの料理です。

「ラーメン人気は近年の話で、もともとはうどん文化ですね。香川のようにうどんのコシに注目するよりも、しっかりととった強いだしが特徴。大人になって、京都や大阪のあっさりしているけど深いだしの味わいにも目覚めました」

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ご自宅では、煮物や鍋、おでんなどのときに、だしをとることが多いそう。

「夫が料理してくれることが多いのですが、こだわり屋でかつおぶし削り器も持っているんです。だけどやっぱり日常では使わない(笑)。おいしいものが好きなので、簡易だしはあまり使わず、昆布やあご、鰹ぶしできちんととっています。でも、だしプレッソはおいしいって喜んでいます。余計なものが入っていないし、使い勝手がいいって」

だしプレッソは、焼津産鰹節または北海道産真昆布のみを原料に、高圧で一気に抽出した液体だし。

「長く煮詰めたからって濃いだしが取れるわけじゃないんですよね。いいだしをとるには、材料をたっぷり使わないと。だからだしプレッソは、手軽で気楽。うちでは昆布と鰹をブレンドして、混合だしとして使うことが多いかな。炊き込みごはんにちょっと加えたり」

レシピを開発していただくときのこだわりについてもうかがいました。

「実は、裏テーマが"和風の復活"なんです。"風(ふう)"って、本物志向の今は馬鹿にされがちだけど、1970年代くらいは格好よかった。海苔をかけたたらこスパゲッティとか、和の素材を使ったスパゲッティなんて衝撃でしたよ。おしゃれなイタリアンレストランでは出てこないし、偽物っぽい扱いをされているけど、よく考えたらおいしいよね!と。そんな気持ちで、和風カレーとか和風スパゲッティを意識してメニューを考えました」

そうして生まれたのが、魚介とズッキー二のだしパスタや、鶏と野菜の和風だしスープカレー

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「例えば、カレールーではなく、スパイスミックスとかカレー粉からカレーを作るときに和のだしを使うと、それだけで和風感が出る。豚バラの和風カレーなんて、絶対おいしいじゃないですか。家庭だからこそ食べられるおいしさです」

鶏と野菜の和風だしスープカレーはおにぎりを入れるのもポイント。多めに作っておけば、2〜3日は食べられます。

「野菜もなんでもいい。しいたけを入れたり、福神漬けを添えたりしても。おにぎりを割っても楽しいし、ラーメンの替え玉みたいに違うおにぎりを足してもいい。おにぎりも大小作っておけば、量の調整もきくし。野外で作るときや、持ち寄りのときにもいいかも」

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食の世界にも流行があり、それはファッションの流行よりも早いかもしれません。移り変わっていくなかで、だしの必要性が根強いことを、あらためて感じている福田さん。

「うま味成分というか、だし的なものって世界中にあって日本にも入ってきているけれど、鰹と昆布って廃れないし、逆に世界に進出している。世界のファインレストランが和のだしを認めていて、流行に左右されない存在ってすごいと思うんです」

今、和食の健康的な面も、世界中で注目されています。

「ただ、和食って意外と砂糖をよく使うんですよね。おいしくなるけど、私はお菓子がやめられないから、料理にはなるべく砂糖を控えたい。そんなときにだしを効かせると満足感が出るんです。洋食でも、水や牛乳の代わりにだしを使えば、うま味も出るし、からだにもいい」

だしをベースにするほか、風味付けに使うのも福田さんのアイデア。

トマトのだしスムージーは、だしを1人分、大さじ3だけ入れることで、ほんのり和風に仕上がります。隠し味的な使い方。鰹だしのうま味成分がトマトのリコピンと合うんですよね。不要不急の外出を避けて、家にお籠もり中でも、フレッシュなものが食べたくなるし、ビタミンも取らなきゃいけないから、トマトはおすすめ。電子レンジにかけてホットスムージーにするのもおすすめですよ」

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かじきまぐろのカリフラワーねぎま鍋には、だしプレッソ 昆布を利用。ご自宅でも、鍋料理に昆布だしを使うことが多いとか。

「例えば、水炊き専門店にいくと、真っ白になるくらい煮込んだ鶏ガラスープを使っているけれど、私は鶏だんご鍋を昆布だしで作ります。それをレモン醤油で食べる。あっさりとしていておいしいですよ。野菜と魚の切り身くらいのシンプルな鍋が好きですね。最後は、きちんと溶いた卵を細ーく落としたおじやで〆ます」

ほかにも、だしをつけ汁にしたり、たれにしたりと、だしプレッソはさまざまな使い方が考えられるとのこと。

「冷しゃぶにかけてもいいし、ステーキをさっぱり食べたいというときにもいい。ちょっとだしが入るっていうのは、どんな料理もおいしくしてくれるんですよ」

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福田さんの頭のなかは、アイデアの宝庫。雑誌や書籍などにレシピを提案するほかに、お菓子の開発も手掛けられています。

「昨年は、福岡県・糸島市にオープンしたゲストハウス<bbb haus>のオリジナルクッキー、サブレ・ウィークエンド・シトロンを監修しました。一過性の流行じゃないもの、長く愛されていくもの、イメージに合うものなどを考えて。パッケージデザインにもこだわっているんですよ」

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<やいづ善八>のアイテムでお菓子になりそうなものは?と聞いてみたところ、楽しげなアイデアが次から次へ!

「デザート系じゃなくて、おつまみとか、しょっぱいおやつがいろいろできそうですね。サクサク鰹ふりかけはそのままおやつにもなるし、グラノーラにも使えそう。レモンを足してもおいしそうじゃない?」

最近は、プレーンなお煎餅とおいしい海苔を買ってきて、自分で巻くという食べ方にハマっているそう。

「自分で巻くのって楽しいし、市販の海苔巻きおかきより、確実においしくなるんです。ふりかけも、自分でクラッカーにのせて食べるとか、そういうカスタマイズがあってもいいよね。バターじゃなくて、ごま油とかオリーブオイルで作ったクラッカーに、チーズ塗ってふりかけとか。絶対おいしい、やってみたいですね」

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取材・文/藤井志織

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菓子研究家。武蔵野美術大学卒。果物の老舗・新宿高野に勤務後独立。『フードを包む』や『民芸お菓子』、『ゴロツキはいつも食卓を襲う・フード理論』、『R先生のおやつ』、『いちじく好きのためのレシピ』、『新しいサラダ 』など著書多数。テキスタイルショップとコラボレーションしたエプロン<ESILIINA >や、<GOOD NEIGHBORS' FINE FOODS>とコラボレーションしたアイスキャンディー<mikaned>も大人気。