• だしと私 2020.08.04

vol.23 建築家/一級建築士/写真家/醸造家 干田正浩さん

研究家肌の建築家が作るだし料理

注文がひっきりなしの人気建築家であり、ワインの醸造家でもあり、写真家としても活動している干田正浩さん。ご自宅には"発酵棚"なるものがあり、料理は玄人はだし。庭にはトマトやブドウが育っていて、いったいどんな人なのだろうと、ますます好奇心が刺激されます。

お話をうかがってみれば、すべては一本の線で繋がっているのでした。

炊き込みご飯写真.jpg

建築、醸造、写真と全く異なる分野においてその道を極めている干田さん。写真は学生の頃にドキュメンタリーの編集プロダクションでのアルバイトで覚えたのだとか。

「もともと建物や空間が好きで、学生時代にアフリカの集落とかスラムとかに住み込んで撮ったりしていたんです。なぜそんな場所に魅力を感じるのかと考えると、スラムって人間が設計したのではなく、自然発生したようなものだから。その理由などを修士論文のテーマにし、その流れでジャーナリズムにも興味を持ちました。ただ、スラムの現状を伝えることはジャーナリズムだけど、その環境を変えようとすると、食とか建築とか生活に密着していることの方が影響力がある。そんな考えが、現在の建築の仕事につながっています」

25、6歳の頃は渡仏し、設計事務所で修行。

「父がお酒好きなので、実家にいた頃からウイスキーやビールなどをよく飲んでいたんです。フランスでも最初はクラシックワインを飲んでいたのですが、その頃、話題になり始めていたヴァンナチュールが美味しくて開眼。以来ずっと飲み続けています。保有しているワインの数もかなり多いので、東京の自宅と福岡の事務所のワインセラーのほかに倉庫を借りて保管しています。友人たちには業者かと笑われますね(笑)」

ワイン写真.jpg

干田さんのワイン知識は知る人ぞ知るところでもあり、醸造家仲間と飲むときはブラインドテイスティングを楽しむことも。なんと、地域や年代、ぶどう品種まで当てるのは日常茶飯事なのだとか。やがてワイン好きが高じて、生産者と交流するうちにワイナリーの収穫や仕込みの手伝いをするように。

「数年手伝っているうちに、もっと通しで生産に関わり、責任を持たないとわからないことがある、と考えるようになりました。それで今は葡萄を栽培するところから、80kgほどを収穫し、醸造までを手掛けています」

建築もワインも、とにかく興味を持ったことは深く追及。近年は微生物や酵母に対する興味が増す一方。

「やっぱり発酵って面白いんですよね。世間でも流行していて、コマーシャルっぽくなってしまうのは嫌だけれど、日本人にとっては昔からやっていた当たり前のこと。うちでは味噌を仕込んだり、トマトやきのこに塩を振って密閉し、乳酸発酵させたりもしています。酵母にも興味があって、たまにパンも作ります。小麦粉を練ればパンができるけれど、多種多様なプロセスがある。なぜそんなに違うんだろうっていうところに興味があって、いろいろと実験したくなりますね。
学校の勉強が得意だったわけではないけれど、知りたいことを学ぶのはすごく楽しい。ハマると大変なことになるので、もう趣味を増やさないようにしないと(笑)」

発酵棚写真.jpg

畑仕事も趣味の一つ。ご自宅のお庭には、レモングラス、オレガノ、数種類のミント、バジル、フェンネル、ディル、マジョラム、三つ葉、みょうが、ローリエといったハーブ類や野菜が育っています。

「農薬は使わず、肥料は落ち葉と緑肥だけ。畑もワインや味噌を仕込むのと同じで、作るのが楽しいんです」

畑写真.jpg

取材にあたって、料理も作っていただきました。庭で採れたトマトは、自家乳酸発酵トマトと合わせて奥深い味わいのサラダに。

「子どもの頃から、料理が好きでした。幼いうちから母に手伝わされていて、小学校高学年のときには一般的なおかずはある程度作れるようになっていましたね。だしはひくのが当たり前。シンプルなほうが好きなので、1種類でとることが多いかな。基本は真昆布ですが、料理によっては鰹やいりこも使います。昆布は抽出の仕方で味が変わるのも面白くて。旨味を強めに出したいときは、60度で1時間かけて抽出するとか、軽やかにしたいときは水から入れて少しだけ加熱するとか」

だし一つとっても、干田さんにとっては楽しい研究対象。

「建築事務所というと、みんな忙しくてカップ麺ばかり食べてる、なんて話もよく聞きますよね。でも、心地よい住宅って、生活をしている人だからこそ作れると思う。僕も忙しかったけれど、深夜に帰宅してからパンを仕込んで、ワイン飲んで、それから寝ていました。睡眠時間は足りなかったけど、その楽しみがないと生きていけないから」

自分の好きな生活スタイルがあってこそ、仕事に活力が生まれる。それはフランスを始めとした海外の友人たちの暮らし方に影響を受けたところも大きいよう。

「建築も土も料理も、全部繋がっていると思うんです。だから若いスタッフにも、なるべくちゃんとしたものを食べるようにと伝えています。今は、そういうことを大切にしている人が増えてきましたね」

独立して5年ほど経った現在は、東京と福岡の事務所を行ったり来たりの日々。

「福岡で仕事をしていたら飲み友達がたくさんできて、そこから仕事につながることも多かったので拠点を作ったんです。友達とか知り合いとか、行きつけの店で仲良くなった人から仕事をいただくことが多い。価値観や感覚が共有できる人と仕事をするのは、スムーズで楽しいですよ」

エントランス.jpg

カウンター.jpg

客席2.jpg

「施主さんと話をして、大切にしているものや考えなどをすくいあげて、有機的な繋がりを大切にデザインします。<コーヒーカウンティー>では、コーヒー豆の産地でもあるエチオピアの話で盛り上がったので、土や木を主役にしたエチオピアの集落のような雰囲気に。その地域ならではの素材も大切にしたいから、例えば山形の<この山道を行きし人あり>というカフェのファサードは、紅花で染めました。事務所内では議論するけれど、即興的に作ることも多いですね。移動中に企画を考えることも多いし、飲んでるときに思いついたりもするし」

九州から北海道まで、同時にいくつも案件を抱える忙しい日々。仲良しのワイナリーや酒店の建築も手掛けているそう。好きで始めたことがすべて繋がっていることが伝わってきます。

追加のお写真.jpg

「事務所を大きくするつもりはないけれど、もう少しスタッフが育って事務所単位で動けるようになったら、いずれまた海外を周ったりしたいですね。やりたいことが多すぎて、順序をつけないと寝る時間がなくなっちゃう(笑)」

ご本人写真.jpg

生活と仕事がオーバーラップしているなかでも、特に料理や食事は大切なリフレッシュの時間。

「普段はご飯を炊いてお味噌汁を作ってという感じ。シンプルだからこそ、調味料とか素材そのものが大事だと考えています。野菜は自分でも育てているし、全国の友人知人が送ってくれるものが美味しくて」

ときには本格的なフレンチやイタリアンも作ります。

「若い頃にヨーロッパを数ヶ月かけて周ったときに覚えた料理も多いです。泊まっていたドミトリーでイタリア人のシェフに教わったり、フランスで鳩の料理を教わったり。アフリカでは豚や象の解体も体験しました」

取材日に作ってくれたのは、だしプレッソを使った冷製おでん。ズッキーニ、トマト、ナス、玉子などをそれぞれの具材に合わせて下ごしらえし、だしを含ませています。蒸し暑い夏にもついつい箸が進んでしまう一品(レシピは最後にご紹介)。

おでん写真.jpg

「だしをとるのは慣れていて面倒でもないけれど、ちょっとアクセントに使いたいときとか、ソースに少し混ぜ込むとか、調味料としてちょっとだけ使いたいときに便利ですね。ニンニク、オリーブオイルだけのアーリオオーリオのようなパスタを作るときに、水ではなく昆布だしで乳化させたり、アトマイザーに入れて、サラダに吹きかけたりもしています」

気前よく開けてくれたワインたちとの相性も抜群です。

「ヴァンナチュール、特に日本のワインって、鰹だしっぽい味わいのものもよくあるので、だしプレッソを使った料理とよく合うんです」

今回は、だしプレッソを使った2品のメニューを特別に教えていただきました。

幸せなフルコースをぜひお試しあれ。

炊き込みご飯写真.jpg

夏おでん

◆材料(2人分)

だしプレッソ 鰹節 100ml 
だしプレッソ 昆布 100ml 
水 200ml
みりん 大さじ2
しょうゆ 大さじ2
トマト(中玉)、オクラ、ナス、ズッキーニ、とうもろこし、万願寺唐辛子(ししとう)など好みの夏野菜 適量
鶏肉(骨付きのもも肉か、手羽元) 150g
鰹節 適宜

◆作り方

① 鍋に湯を沸かし、材料の下ごしらえをする。トマトは表面に十字に切れ目を入れて湯むきする。オクラ、とうもろこしはさっとゆでて冷水にとる。鶏肉は1分ほど下ゆでし、余計な脂を落とす(だしが濁らなくなる)。

② だしプレッソ(鰹節・昆布)を合わせ、水、みりん、しょうゆを加えて火にかける。沸いたら弱火にする(好みで追い鰹をすると風味が強くなる)。

③ ②に①の鶏肉を加え、3分ほど煮込んでから火を止める。

④ ナス、ズッキーニ、ししとうは表面にかるく塩を振り、なじませてから油を引いたフライパンで焼く。焼きあがった野菜から、③に加えていく。

⑤ だしが人肌くらいに冷めたら、①のトマト、オクラ、とうもろこしを加える(冷めてから入れると変色しない)。

⑥ そのまま冷蔵庫で2時間ほど冷やす。ひと晩寝かせると味が染みておいしい。

牛もも肉の焼き浸しと、炊き込みご飯

◆材料(2人分)

<牛もも肉の焼き浸し>
だしプレッソ 鰹節 200ml
牛もも肉ブロック(国産の赤身) 300g 
ねぎの青い部分 1本分
しょうが 1片
みりん 大さじ2
しょうゆ 大さじ2

<炊き込みご飯>
牛もも肉の焼き浸しのだし 適量
米 2合
塩・三つ葉 各適量 

◆作り方

① 牛肉は室温に戻しておく。

② フライパンを強火にかけて油(分量外)を引き、牛肉を入れ、全面にかるく焦げ目がつくまで焼く。

③ 小鍋にだしプレッソ、みりん、しょうゆ、ねぎ、しょうがを入れて火にかける。②の牛肉を加え、だしに浸かる状態にし、沸いたら蓋をして火を止める。

④ 4分後に牛肉を裏返し、再び蓋をし、さらに4分おく。レアが好みならここで牛肉を取り出す。ミディアムレアにしたいならさらに8分ほどおく。取り出した牛肉はアルミホイルで包み、そのまま20分ほど休ませる。

⑤ 小鍋に残っただしに水を加え、合わせて400mlにする。

⑥ 鍋に研いだ米と⑤を入れ、強火にかける。沸いたら弱火にし、10分ほど加熱してから火を止める。

⑦ 蓋をして10分ほど蒸らし、刻んだ三つ葉とスライスした牛肉を混ぜ込む。

取材・文/藤井志織

プロフィール.jpg

プロフィール

建築家/一級建築士/写真家/醸造家。
1983年東京都生まれ。2006年より写真家として活動。アフリカやアジアの集落、都市をリサーチしながら、 20ヶ国以上の都市を撮影。2009年、工学院大学大学院 工学研究科建築学専攻を修了。在学中より設計事務所に勤務し、修了後はフランスの設計事務所に勤務。帰国後、建築家、写真家として活動。NAP建築設計事務所を経て、2016年、干田正浩建築設計事務所設立。
http://www.mhaa.info