• だしと私 2025.10.09

vol.58 フォトグラファー 濱津和貴さん

日本の食文化を写真を通して世界に広めていきたい


リサイズ_H6A5256.jpg


20歳で渡米し、6年半をサンフランシスコで過ごした写真家の濱津和貴さん。
夏休みに訪れたアメリカの友人たちや日本、ヨーロッパなどの景色を撮った写真集が密かな人気ですが、近年は料理研究家のレシピブックや、雑誌やWEBでの料理記事での撮影も多く手がけています。

「仲良くしていた友人たちと初めてアメリカに遊びに行ったとき、なんだか相性がいいと感じたんですよね。そこからいきなり、留学しました(笑)。まずは語学学校に通って、シティカレッジに入学して写真科を卒業。とにかくお金がないから、バイトを4つくらい掛け持ちしていた時期もありましたね」

カリフォルニアは"人種のサラダボウル"(多様な民族が固有の文化を保ちながら、一つの社会のなかで共存している多文化社会を例える言葉)と言われているだけあって、お金がかかる食べ歩きはできなかったけれど、さまざまな国の食文化に触れることができたそう。

「インド、ベトナム料理など、アジア系が多かったですね。サンフランシスコはオーガニック先進地域なので、そんなムードを体感できたこともよかった。当時の友人が、アメリカで人気の飲食店を営んでいて、そのサイトの写真も撮ったりもしています。留学時代に体験したさまざまなことや人脈が、今の仕事のベースになっています」

2009年に帰国して、写真スタジオでの修行を経て独立。

「スタジオ勤務時代はパキッと撮るような広告写真がほとんど。でも留学時代に出会った友人の繋がりから『for life-kitchen』というメディアに関わるようになって、食やライフスタイルの撮影って面白いなと感じました。とはいえ料理専門のフォトグラファーの方はたくさんいらっしゃるので、私が手がけるにはハードルが高いかもと思っていたんです。だけど私は、料理そのものよりも、料理を通してその料理家の方のライフスタイルや背景が見えるような写真を撮りたい。だんだんそんなお仕事が増えてきて、今はとても楽しいです」

リサイズ_H6A5247.jpg

国内外への旅も多く、特に海外にいると日本の魅力に気づくと話す濱津さん。

「例えば今、海外では抹茶が流行っていますが、日本人からすると、そこにはもっと深い文化があると感じる。だしを取るという一つのことに対しても理由があるし、その味わいは繊細で健康的。日本の家庭料理は、食欲を満たすためだけではなく、ちゃんと栄養的にも満たされることがベースにあって、使う食材の数も多い。スープやサラダだけでなく副菜も多いし、地方ごとにバリエーションが豊富。小さな島国なのに、土地や家庭によってだしの取り方や使う醤油が違ったりする。そんな日本ならではの食文化を、日本人だからこそ、もっと細やかに伝えていきたいなと思うんです」

そこで濱津さんが友人の中村桃子さんとともに4年前に始めたのが、ストーリーテリングユニット「kinhiji(きんひじ)」。

リサイズ_H6A5249.jpg

「以前、一緒に『Plant-based Tokyo』っていうビーガンレストランのガイドブックを作った仲間なんです。中村さんは海外で料理にまつわる研究や料理番組のプロデュースなどを手がけてきたこともあり、日本の伝統的な食文化をちゃんとした形で英語圏の人に発信したいなと考えていて。私たちが伝えたいのは日本の衣食住にまつわる、おばあちゃんの知恵袋的なもの。お米やナスなど、なにを通して見せていくのがいいかと考えて、ふと海藻だ!って思いつきました」

あらためて調べてみると、海藻は日本全国で食や住居や衣類に利用されていて、地方ごとの違いもあることがわかりました。そこで2人は海藻プジェクトを始めることとし、探究の旅へ。

リサイズ_21A6551.jpg

「海藻にも旬があるので、フィールドワークのタイミングを合わせるのはけっこう難しいですね。関わる人との出会いを大事にしているので、リサーチにも時間がかかります。もちろん費用もかかるし、仕事とスケジュールを両立しなければいけない。でも探求するのは本当に面白いです。いずれ、海外で一般的なコーヒーテーブルブック(写真集でもあり読み物でもある本)や、旅と海藻にまつわるZINEを作ろうと企画中」

そんな濱津さん自身も、料理が好き。

「10年ほど前に結婚してから、料理をするようになりました。出張が多く、仕事で遅くなったり、1人で呑みに行ったりするのも好きなので、週に多くて4日くらいかな。最初のうちは作らなきゃというプレッシャーを感じていたし、失敗もありました。でも撮影で料理家さんの話を聞いているうちに、だんだん上達してきて」

昼食に麺類を作ることが多く、特にパスタは乳化のポイントなどを撮影時に覚えたおかげで、格段に上手になったそう。

「撮影した料理をすぐに作りたくなるんですよ。レシピ本を見るのも好きなので、撮影を担当させていただいた小堀紀代美さんの『ライクライクキッチンの毎日和食』や、たまにお仕事をご一緒させていただく長谷川あかりさんの本に載っているレシピもよく作ります。ときには材料や味付けのヒントをもらうだけでレシピ通りに作らないときもありますが、本を見て作るのは楽しいですね」

リサイズ_H6A5244.jpg

よく作るのはお味噌汁。和食っぽい献立の日は、いつも添えているとか。

「北海道出身の父と、神奈川県出身の母、4姉妹が育ったのは高知という家庭環境なので、だしも料理もいろいろ混ざってます。だから私も定番や郷土料理というより、スーパーマーケットで食材を見て、その日に作る料理を決める感じです。自己流の料理は特に料理名もないし、同じものは二度と作れない(笑)」

そんななかで、毎夏、作り続けているのがとうもろこしときゅうりのサラダ。

リサイズ_H6A5224.jpg

「大好きなとうもろこしをゆでて、きゅうりとあればアスパラガスなどを合わせて、だし醤油と、オリーブオイル、粒マスタード、レモン汁かビネガーで和えるだけ。搾菜など、コリコリした食感のものを入れるのがポイントです」

やいづ善八の商品のなかでは、深み鰹白だしがいちばんのお気に入り。

「やきつべのだしはお味噌汁や煮物、お茶漬けに使っています。これまで、市販の白だしや麺つゆを使うと、全部同じ味になってしまうと感じて苦手でしたが、深み鰹白だしはちょうどいい味付けで、お昼によく作るうどんに重宝しています。とろろ昆布、みょうが、しそ、梅干しと合わせたりして。つゆプレッソはスモーキーな香りが好みで、麺料理だけでなくサラダや煮物にも使っています」

リサイズ_H6A3065.jpg

取材・文/藤井志織

プロフィール
_P7A9987.jpg

濱津和貴
書籍や雑誌、WEBで活躍するフォトグラファー。
群馬、高知で10年ずつ育ち、2003年に渡米。6年半をサンフランシスコで過ごし、写真、文化、コミュニケーションのあり方などを学んだ後、2009年帰国。都内のスタジオ勤務後、2012年に独立。日常に佇む美しさをテーマに、はたらく、食べる、着る、奏でる、旅するなどの人の営みと、そこから生まれる光景を撮り続けている。
自身で写真集や写真展の企画も行っている。