• だしと私 2021.07.23

vol.34 大井商店 大井将光さん

家にあるものでパパッと手早くおいしいものを

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調味料やパスタ、スパイスなどを飲食店に卸すという仕事をしている〈大井商店〉の大井将光さん。おいしいものとお酒が好きで、取引先で外食を楽しむことも多いけれど、普段は自宅できちんと自炊。料理が好きになることが、仕事の成長にも繋がったという大井さんに、日常の料理についてお話をうかがいました。

ひと昔前まで、"男の料理"といえばひと晩煮込んだビーフシチューのような凝ったものを作るイメージがありました。大井さんが作るのはそれとは真逆の、家にあるものでささっと作る日常的な家庭料理。

「娘の子育て中は、母親のほうが帰りが遅かったので、夕飯を僕が作ることが多くて。本当に普通にご飯を炊いてお味噌汁を作って、なにか炒めものなり煮ものなりを出していました。"丁寧な暮らし"とはほど遠く、毎日がバタバタ(笑)」

もともと料理が好きだったわけではないから、子どもと図書館に行ったときに料理本を読んではレパートリーを増やしていったのだとか。

「気になるレシピはノートに書き写して、家で作ってみて。レンジで作るパンレシピで、シナモンロールを作ったりもしましたよ。そんなことを繰り返していると、調味料の名前をたくさん覚えられた。どんな料理に何を使っているのか、ということもだんだんわかってきたんです。それが仕事にも役立って、このお店のこんなメニューなら、こういうスパイスを使うんじゃないかなとか想像して、おすすめできるようになりました」

必要に迫られて料理と向き合っているうちに、料理自体が好きになっていったそう。今では、焼きそばやラーメン、パスタなどを手早く作っている様子。

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「よく作るのは麺料理。忙しいときは顆粒だしもよく使っていました。親も使っていたし、そんなに深く考えずにあるものを利用していた感じ」

だしパックを煮出す時間すら短縮したいという気持ちは、忙しい人は多かれ少なかれ共感するのではないでしょうか。ましてやその頃は、大井さんが今の仕事を始めて試行錯誤していた頃。

「20年ほど前に祖父がやっていた食材卸し業を継ぎました。最初は祖父のやり方のまま、8年ほど続けていたんです。だけどやりたくてやってるわけじゃないし、ずっとモヤモヤしていましたね」

せっかくなら、好きな店と仕事がしたい。人気のレストランと仕事がしたい。そんなちょっとミーハーな気持ちから、気になっていたお店に飛び込み営業を始めた大井さん。

「転機となったのは渋谷の〈アヒルストア〉(vol.29に登場)ですね。勇気を出して営業に行ったら、受け入れてもらえて、そのうち西荻窪の〈オルガン〉(vol.3に登場)にも紹介してくれて。だんだん、いろいろなお店とのご縁が繋がっていきました」

最初は笑われるくらいしつこくお店に通い、プライベートでも通っていたのだそう。

「また大井さん来たよ、ってよく笑われてました(笑)。そのうち、そのお店の料理人の方たちが選んだものを仕入れるようになって、『こんなのない?』って聞かれたら価格と品質に見合うものを必死で探して。扱う商品も変わっていきました」

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配達も自分、営業も自分。すべて1人でやっているから、取引先と毎日のように顔を合わせて会話をするうちに、信頼関係が築けていったよう。

「だいたいは飛び込み営業だと、単なる価格競争になりがちで、それは嫌だったんです。だけどプライベートでも飲みに行くくらい好きな店なら、仕事をすることも楽しくて、やりがいがある。飲みに行くことで、人の繋がりも広がっていく。20年前と比べたら今は本当に楽しいですね」

取引先で働いていた人が独立して店を持ち、そこが新たなお客さまとなる。そうやって少しずつ取引先が増えてきた〈大井商店〉。1人で丁寧にやっていくには、今は十分な仕事量のよう。

「子育て中と同じように今も忙しいけれど、仕事を通じて舌も育ってきたから、単に時間や手間を短縮した料理では満足できない。顆粒だしで作っていた味噌汁も、このやいづ善八のだしプレッソを使ったら味が全然違う。顆粒だしくらい便利で手軽だけど、めちゃくちゃおいしいんですよね」

そんな大井さんが好きなだし料理は、取引先であるレストランのメニューをヒントにしたもの。

しらすのとろとろ丼は、世田谷の松陰神社前にある〈食堂めぐる〉の定番メニュー。

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「これを初めて食べたとき、めっちゃおいしい!って感動して。だしプレッソで何を作ろうかなと考えたとき、あれだ!って思いついたんです。店主に聞いたら『作ってみて』って教えてくれた」

作り方はとっても簡単。

「卵にだしプレッソの昆布と砂糖、薄口醤油を入れて混ぜ、フライパンで炒めるだけ。炊きたてのご飯にのせて、しらすとわかめを添えます。〈食堂めぐる〉では、大葉とか刻みのりとかも入っていますよ」

もうひとつのレシピは、西荻窪にある〈三人灯〉のランチメニュー。

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「お酒を嗜む店なのに、ランチメニューも本気なんです。ちゃんと鰹でだしをとって料理をしている店。このパスタは、ボウルにだしプレッソの鰹とパスタの茹で汁と明太子を入れて混ぜておき、そこに茹でたパスタを入れて和えるだけ。器に盛って、大根おろしをのせると、全体がからんでおいしいんです」

本家はなめ茸がのっているところを、大井さんは家にあった椎茸をだしプレッソの昆布と香る鰹だし醤油で煮詰めた佃煮で代用。仕上げに海苔を飾って。

「いわゆる"男の料理"は作らないけど、男はやっぱり麺が好きだよね(笑)。とくに夜とか夏は麺の出番が多くなります。だしプレッソがあれば、茹でて薬味添えれば終わりっていう簡単さがありがたい」

今すぐに真似できそうな、大井さんお気に入りの簡単レシピ。ぜひお試しを。

取材・文/藤井志織

プロフィール.JPGプロフィール

食材ディストリビューター
祖父の代からの食材卸業〈大井商店〉を受け継いで20年。そのノウハウを生かして、今は〈organ〉、〈Merci Bake〉、〈Pignon〉、〈アヒルストア〉など、"真面目な姿勢でおいしいものを出している"と自分が惚れ込んだ店に調味料や食材を卸している。