• だしと私 2019.11.11

vol.14 「stillwater」代表 玉置純子さん

とても興味深い仕事を、精力的にこなしている女性がいます。

女性の仲間と4人で、新しい価値を創造するチーム「スティルウォーター」を立ち上げ、「須賀川市民交流センターtette」開館や、「食育丸の内」というプロジェクトなど、意義深い仕事を手がけている様子。

そんな玉置純子さんにとって、だしはどんな存在なのでしょうか。

仕事へのモチベーションや日常の様子など、根ほり葉ほり聞いてきました。

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「知恵」をシェアしながら

みんなで取り組む仕事を

「スティルウォーター」は、どんな会社なのですか?

「クリエイティブコンサルティングが主な仕事です。さまざまな会社のブランディングや、問題解決の相談にのったりすることが多いですね。その会社の本質的な魅力を改めて探り、それを伝えるためのウェブサイトや冊子を企画・編集したり、ワークショップなどで学びの機会を創出したりということもしています。クライアントの特色によって必要なことが違うので、それに伴って仕事内容も変わってきますね」

大手企業や行政と一緒に取り組むことも多いとか。

「街づくりのお仕事も多いです。仕事柄、料理家やカメラマン、アーティストなどと一緒にワークショップをすることで、街に賑わいを創り出したり。とはいえ、問題があるところに呼ばれて解決策を提案する仕事が多いので、最初はアウェイからスタートすることがほとんどです。例えば、福島県須賀川市に市民交流センターを作るという仕事のときは、私たちの仕事は市民を巻き込む役でした。いったいどんな場所が必要とされているのか、市民の方々はどう考えているのか、潜入捜査を手探りで進めるようなものだから部外者と思われてしまいますよね。だけど通い続けていくうちに、なんだか一生懸命やってくれそうだぞ、と心を開いてもらえるようになって。人と共感してチームを組むということができるのは、女性の得意技かもしれません」

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食にまつわる仕事も多いのでしょうか。

「周りに食いしん坊が多いせいか、食にまつわる仕事も多いですね。例えば、花の開花にあわせて巣箱を移動させながらはちみつを取るという転地養蜂を100年以上手がけている「近藤養蜂場」の仕事では、はちみつの消費量を増やしたいというご相談を受けて。確かにはちみつって、ヨーグルトにかけるくらいしか使い道が思い浮かばないかも。ならば第三のはちみつはどうだろう、と調味料として使えるはちみつのブランド「BEE my HONEY」を作りました。大人のレモネードとか塩はちみつとかね、大好評なんですよ。そんなふうに、いい生産者さんたちと一緒に商品開発をするのは楽しいです。

代官山ヒルサイドテラスで「日々是食卓」というイベントも6年ほど続けています。生産者が作ったものを料理しながら食べるというイベントで、全国に生産者を参加してほしいと口説きに行くんですよ。断られても、何度か通ううちに応じてくれたりします」

また、大人のための食育活動「食育丸の内」というプロジェクトにも参加しています。

「三菱地所がスタートしたフードプロジェクトです。丸の内で働く人は28万人にものぼり、日本のGDPの約3割を稼ぎ出しているという試算があるそうです。だからこそ、働く人々が食を通して元気になってくれたら、日本全体の活気につなげていけるのではないかと。このプロジェクトでは、名だたるシェフに一緒に参画してもらい、レストランイベントを開催したり、マルシェをしたり、東日本大震災の被災地の復興支援のためにオリジナルの缶詰を開発したり、さまざまな活動をしています。地方の生産者さんたちと繋がったり、シェフたちのクリエイションに刺激されたり、面白いんですよ」

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心地よい働き方を

自分たちでつくってきた

手がけている仕事の幅の広さに驚きますが、それは社員4人の個性によるものなのでしょうか。

「「スティルウォーター」は、元同僚や友人といった仲間うちで立ち上げた会社なんです。上下関係のない仲間たちなので、4年交代で社長を替えています。そのときに運気のいい人が社長になって、会社を引っ張っていくという仕組み。やはり社長の性格で、そのときの会社の空気感は変わります。慎重派のメンバーが社長のときはお金が貯まっていたのに、アグレッシブなメンバーが社長になると新しい会社を立ち上げてすっからかんになったり(笑)」

女性4人の仲間同士での仕事って、ときに人間関係が難しくなりがち。そんな悩みはないのでしょうか。

「それがないんですよ。会社ってもともとは男の人たちがつくった組織だから、出世するというモチベーションが重視されがちだけど、女性は上下関係を必要としていないのかも。もっとフラットな関係が働きやすいのかもしれませんね。以前、働き方を考えている女性にいちばん薦めたいのは独立という話を聞いたんです。自分のペースを守れるし、ここぞというときに頑張りも効くし。からだにとってもメンタル的にも、フリーランスの働き方がいいって」

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最初はシェアオフィスからスタートした「スティルウォーター」も、8年経った今は、各界から引っ張りだこの会社に成長。

「普通、予算があってその中で効率よく仕事しようと思うかもしれないけど、私たちはクライアントから言われた予算の何倍も働いてしまうこともしょっちゅうです。特に私がそういう性格で、ほかの3人には迷惑をかけっぱなし(笑)。だけど、最初から石橋を叩きまくるメンバーもいるから、結果的になんとかバランスがとれています。予算は合わないけど玉置はやりたいんでしょ、じゃあ頑張ってみようって。メンバーがわかってくれてるんですよね」

タイのオーガニックハーブの魅力を

もっと多くの人に伝えたくて

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2年前には、デザイン会社「水鳥デザイン」とタイでスパを経営している「アジアハーブアソシエーション」と一緒に、「The days」という会社も作りました。

「いろいろなクライアントワークを続けているうちに、自分たちの感性は世の中でどんなふうに受け入れられるんだろうって思ったのがきっかけです。偶然、仲の良い「水鳥デザイン」がタイに移住したり、私自身もタイに縁があったりして、メンバーがみんなタイに4年ほど通っていたんです。タイって食卓で必ずハーブがどっさりおいてあって、それをつまみながら食事をするんですが、とても複雑な味わいなんですよ。ミントとかカモミールのような一般的なものもいいけれど、パンダンリーフとか菊花、レモングラスとか、だしのような風味のハーブを、もっといろんな人に知って欲しいなと思って」

そこで、オーガニックのハーブ農園を探すところからスタートしたものの、なかなかハードな道のりだったとか。

「見つけては口説くんですが、話がまとまったと思ったら、急に辞めちゃうということもよくあって。タイ人は仕事よりファミリーが大事だし、日本でやるビジネスとは違う。でも、とても熱心で、味のセンスのよいお母さんがやっている農園出会えて、このハーブティーを作ってもらうことになりました。何度も通いながらブレンドを決めて、ヨーロッパのオーガニック認証をとって、タイで販売をしています。日本でも、これから売り出し始めるところです」

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ハーブを中心とした商品はパッケージデザインも素敵なので、贈り物としても人気が出そう。

「コーヒーは、ラオスやミャンマーとの国境付近の森で作っている畑のもの。コクがあって深みのある味に惚れたんですが、まあ、日本の常識が通らないような大変なことがたくさんあります(笑)。リス族のポシェットにワンドリップコーヒーのパックをセットにしたものや、ナーンというかつて海の底だった地域の山の井戸水を釜炊きして作った塩とハーブをブレンドしたものもラインナップしています。やってみたら、食物販ビジネスで利益を出すって気が遠くなるほど頑張らなきゃいけないってことがわかって、今のところまだ経費がかかっているだけなんですけど(笑)」

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忙しい日々を支えるのは

手作りの食事

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そんな忙しい日々のなかでも、なるべく自炊を心がけている玉置さん。イタリア料理のレッスンに通っていたこともあるとか。

「パスタマシーンも持っていて、友人を招いて食事を出すときは、手打ちパスタを作ったりもします。だけど、自宅では基本的に和食が多いですね。オムライスとか煮込みハンバーグみたいなものは作れないけど、その日にある食材でささっと作って食べるのが好き」

玉置さんにとっての"おふくろの味"は、ごはんとお味噌汁というザ・日本食。

「父が駐在員だったので子どもの頃から海外を転々としてきて、和食は努力しないと食べられない環境でした。でも母はそれを感じさせないように頑張ってくれていて。食卓にお味噌汁は必ずあったし、日本のお米を炊く和食が日常だったんです。食事の時間には父も帰ってきて、私たち三姉妹で話題の取り合い。食事の時間がとても楽しみな一家でした」

そんな幸せな思い出があるからか、玉置さんにとってだしを使った和食はとても身近な存在のよう。

「今もごはんやうどんが大好きで、お味噌汁は必ず作ります。だしは、行きつけのかつおぶし屋さんの削り節を使ったり、事務所の近くの自然食品屋さんでだしパックを買ったり。最近は、やきつべのだしもよく使っていますよ。深み鰹白だしも、卵焼きやドレッシングに愛用しています。深み鰹白出しにオリーブオイルとこしょう、柑橘の果汁などを混ぜたドレッシングでお刺身をマリネしたらおいしかった!」

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スティルウォーターの事務所にはキッチンもあり、ランチタイムにはみんなの賄いを作ることもあるのだそうです。

「そう、賄い隊長なんです。事務所の小さなキッチンで、簡単なものを作るくらいなんですけどね。みんなお味噌汁が好きなので、お米、お味噌汁、炒めものやサラダなんかをよく作ります。朝にグループラインで相談して、『家にかぼちゃがあるから持っていくね』『うちにはひき肉があるよ』『じゃあ、煮物を作ろうか』という感じ。残業する時期も夕方早めにご飯を炊いて、お味噌汁とおむすびを食べれば、夜の10時くらいまではがんばれるんですよ」

食事を一緒にとる時間に、メンバーそれぞれの近況報告をすることも。玉置さんにとって、手作りの料理はコミュニケーションの手段でもあるようです。

「それぞれが忙しいので、一緒に賄いを食べながら会話をしないと、ずれていっちゃうかなって。家族みたいなものですね。仕事に関する議論も多いですよ。赤裸々に言い合うけど、一緒に食べる食事はおいしい。逆に、食事でしかコミュニケーションがとれない人もいるということも知っています。精神的に弱っている人や病気がちの人には、誰かがつくった料理を食べさせるっていうのがいちばん効くと聞きました」

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実際に、病気がちだった人に手料理を食べてもらううちに、回復していったという経験もあるそう。

「やっぱり外食で塩分を摂りすぎていたりすると、体調もくずれやすい。すると精神的にも弱くなってしまい、どんどん内に引きこもってしまうと思います。手料理を出すときは、必ずおいしいか聞くから(笑)、会話も生まれるんです。そうやって回復していくのを見ていたら、食事って大事なんだなと再認識しました。何もできなくても、料理を作ってあげられたらいいですよね。私、だし、醤油、オリーブオイル、お酢と食材さえあればなんとかなると思っているんです。良質な調味料には、そういう心強さがありますね」

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取材・文/藤井志織

プロフィール

photos by kim ahlum

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玉置純子

プロジェクトプランナー/ライター。幼少からインドネシア、イラン、フランス、アメリカで生活。その生活経験を活かし、「IDEE」にてインテリアやデザインの仕事を経験。環境プロジェクト「ap bank/urkku」の立ち上げと運営を経て、「Soup Stock Tokyo」のPRとブランディングに取り組む。2013年9月に独立後、「Stillwater」に合流。