• だしと私 2022.11.18

vol.47 ボンボンストア代表 井部祐子さん

地に足のついた生活は、だしを生かした和食から

 

傘やバッグといったファッション小物のブランド「ボンボンストア」のデザイナーである井部祐子さんを表現するならば、コケティッシュでエレガント。すれ違ったら思わず振り返ってしまうような、小粋でおしゃれな姿が目を惹く素敵な大人です。どこか日本人離れした雰囲気を持つ井部さんですが、日常的に好むのはいたって普通の和食なのだと言います。

 

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「昔はよく外食もしたけれど、本当は家で食べるほうが好きなんです。平日は仕事で忙しいから、週末にまとめて3~4品を作り、そのストックに毎日なにかしら15分くらいで作れるものを足していく感じです。作るのは若いときから、だいたい和食。煮物とかお浸しとか、普通のメニューです」

井部さんが暮らす部屋は一見、洋書に出てくるようなインテリアですが、実は古い水屋箪笥が大切に使われていたりと、和の要素がしっくりと馴染んでいます。

「朝はパン食だし、夜にパスタなどを作ることもあるけれど、一気に食べちゃうのがなんだか寂しくて。和食だと少しずつ、つまみながらのんびり食べられるでしょう。冷めてもおいしいし。お米はたまにしか食べないけれど、やっぱりたまには食べるほうが体にいい気がします」

料理は、ほとんどが独学。

「母が作っているのを見てはいましたが、特に母は冷凍食品をほとんど使わない人だったので、それを刷り込まれているせいかイチから作ることを好むようになりまして。和食の基本はなにかと考えたら、やっぱりだしですよね。だしがしっかり支えてくれていれば、余計なことはしないでいいと思うんです。鰹やアゴが好きですね」

海外旅行先にもだしを持参することは多いそう。

「洋食はスープに塩と胡椒、って感じで、なんだか上乗せした味にしか感じられなくて。だしがあったらもっと深みが出ておいしくなるのにな、と思ったんです。海外旅行でホテルに泊まらないときはだしと醤油を持って行って、旅先で食材を買って、鴨鍋とか煮麺とか作ることも」

とはいえ、だしの良さに気づいたのは40代を迎えてから。

「若いときはやっぱり、バンってわかりやすい味が好きでしたね。懐石料理を食べても、ふーん、って感じで(笑)。あるとき、神楽坂の名店でいただいただしで、そのおいしさに目覚めたんです。もう入り口からだしの香りが漂っていて。それでお正月のお雑煮を作るときに、鰹節からちゃんとだしをとってみよう、とトライしたら、失敗。おいしいだしをとることに、がぜん、興味がわいてきました」

おいしいだしを求めてたどりついたのが、百貨店の諸国名産コーナーで見つけた名店のだしパック。

「お雑煮ってだしとお餅くらいのシンプルなものだから、ごまかしが効かないんですよね。それがおいしくできるなら、ちょっと高くてもこだわりたいなと思います」

 

やいづ善八のだしパックは、東京・西荻窪の「松庵文庫」で買ってみたのが最初。

「あ、これおいしいなと思いました。余計な味がしないし、くさみがない」

だしを使って作る料理のなかでも、友人を家に招くときによく作るのはおでん。

「実家のおでんは関東寄りの茶色いタイプでしたが、東京で関西風の薄い色のだしのおでんを食べてから、家でも関西風で作るようになりました。おいしいだしと日本酒が味の決め手ですね。あとは食材から出るだしだけでOK」

 

ほかによく作るのは、豚鍋。

「沖縄のソーキそばが大好きなんですが、考えてみたら豚と鰹のだしなんですよね。それで、冬に濃いめの鰹だしベースに、豚肉と野菜とみじん切りのにんにく、生姜を入れる豚鍋を作るようになりました。〆はうどんがおすすめ」

1人のときに作るような簡単な料理も、教えていただきました。

「なんにもないっていう日に、ありもので作るのはチャーハン。ポイントがだしプレッソや深み鰹白だしで作る自家製調味料なんです」

チャーハンに使うのは、にんにく醤油。薄切りにしたにんにくと酢を煮立ててから、香る鰹だし醤油とだし昆布を合わせてしばらく置くだけ。

「作ったその日から支えて、数日経つと昆布も柔らかくなって食べられます。これがあれば、チャーハンの味がぴたっと決まるんです。焼きそばや焼きうどん、炒めものだけでなく、牛肉芋煮汁の隠し味に使ってもおいしいんですよ」

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取材時に作っていただいたのは、納豆チャーハン。じゃこと大葉の香りが食欲をそそります。

「鍋や湯豆腐なんかに使うのは、同じように薄切りのにんにくと酢を煮立ててから、深み鰹白だしとだし昆布を合わせるだけ。お酢がちょっと入っていると、食欲が刺激されるんですよね。ここに『日常料理 ふじわら』の唐辛子を加えるのも好きです」

 

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簡単だけど、この調味料のストックが冷蔵庫にあるだけで、なんとなく安心感があるのだそう。

「どんなに疲れていても、1日の終わりには火を見たいんですよね。簡単な料理を作ったり、外食後であれば、お茶を沸かしたり。火を見ないと1日が終わらない(笑)」

気負わず、ささっと手早く料理を作る姿からは、スタイルのある大人の格好よさが伝わってきました。

 

取材・文/藤井志織

 


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プロフィール

デザイナー。 ボンボンストア代表。 文化服装学院流通専門課程修了後、有限会社キャパアンドコオにて、アパレル、セレクトショップなどに向けたデザインから企画、生産まで携わるほか、百貨店、専門店における服飾雑貨コーディネート業務を担当。2000年に独立し、商品のトータルプランニングおよびデザインを手がける「BonBonStore」を設立。2014年にはジュエリーブランド「iberi」をスタート。2015年からはイラストレーター&アートディレクターのヒラノマサトオ氏と共に「ALIN et JEAN」というブランドも展開している。2015年から「ALAIN et  JEAN」という猫をモチーフしたバッグや小物ブランドを展開。2022年春夏から「Maison Montmartre」というカットソーやアフリカやインドのテキスタイルを用いたウエアのブランドをスタート。